僕が宇宙人になった日(神耳)
起
僕は、僕を見失っていた。
出会う人それぞれの性質に合わせて、自分の性質も変えていた。
静かな人には静かに、騒がしい人にはノリノリに、孤独な人には優しく、先生には真面目に、
常に自分を偽っている。
僕は友人を作らないようにしている。
彼が僕を友と慕っても、何時でも彼を裏切れるように。
全てを効率良く回すには、これが都合が良かった。
こんな風にしているからか、割と受けは悪くなかった。
相手からしたら、気の合う友に、心の支えに、語り仲間に、
それぞれ印象は違うが、その人が求めている形になっていたからだろう。
だから、裏切ってもばれないし、信頼してくれる。
そんな風にしていると、どんどん僕を友人と思っている人が増える。
一人一人に態度を変えるのだから、十人いたら十通り、百人いたら百通り、
そうすると、本当の僕が居なくなる。
心という小さなアパートが満室になったとき、初めに追い出されるのが僕だ。
他の住人は、相手に会う度に、僕に貢献してくれるが、
僕は何にも貢献しないからだ。
そんな僕を失った僕はいったい何なんだろうか。
承
学校に来て、教室に入った。
僕の机で荷物を整理していると、窓の前でこちらを見ている沢谷を見つける。
それを察知したのか、沢谷はこちに手を振った。
僕は周りが分からない位小さな溜息を吐いて、そっちへ向かった。
「おはよう!相変わらず来るのが遅いなぁ」
朝に似合わぬ活力に満ちた挨拶は、正直嫌いだ。
だが、沢谷はこういう奴だ。
「おはよう、ところで何だい?」
沢谷用の、微妙に明るい雰囲気で言葉を返す。
沢谷はしばらく考えて、こちらの問いに答えた。
「んー、呼んでみただけ」
少し砕けた感じで、文句を付けると、ごめんごめんと謝られる。
関係の無い関わりは嫌いだ。
如何して用事も無いのに僕を呼んでくるのか分からない。
学科が終わると、今度は中井がこっちに来る。
僕の学校には日記を書いて提出するものがある。
自分はそれの確認係だった。
「今日は忘れてる人少ないね」
僕は日記を確認しながら、うん、と返事をした。
日記が書かれているノートを持とうとすると、中井が言う。
「半分持とうか?」
中井がこう言うときは、甘えたほうがいい。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
中井はきっと、頼りにされているという優越感を得たいのだろう。
二人でノートえお運び、指定の場所まで置き、帰って来ると、もう本鈴が鳴っている。
先生に注意を受けながらイソイソと席に着いた。
転
夏休みになり、人と関わる機会が減った。
僕にとっては凄く楽だった。
誰にも僕を染まらせずに済むからだ。
この間に、新しい僕を出迎えた。
誰も居ない僕の部屋に一人で居る時だけ、僕と関われた。
失った僕の二の舞にならないように、
大切に、大切に僕を育てた。
その時だった。
急に扉が開き、ドンと音を鳴らした。
「締め切ってないで、リビングに来なさいよ」
僕の家族は、家族間の交流を大切にしている。
高校生の兄や、受験生の姉だって、何時もリビングにいる。
僕があまり部屋に居ると、母は僕を追い出す。
嫌だった。
せっかく孤独を楽しんでいたのに。
やっと一人になれたのに。
僕を見つけられたのに。
人との関わりに、僕は疲れていた。
だからなのか、もしかしたら元からなのか分からないけど、
人との関わり方が分かるが為に、人と関わるのは面倒くさいことだった。
人と居ることで幸せなんて感じられなかった。
それがどんな人でも、結局は同じだった。
結
強制される団欒と、偽りの自分に嫌気が差していた。
人とはもう関わりたくない。
動物も、虫も、植物も、全部嫌だ。
心のあるものとは関わりたくなくなった。
本当は、自分を偽って疲れたとかも、独りになる言い訳なのかもしれない。
もうなんでそうなりたいのか、僕は分からないけど、
もし神様にお願い事をするのなら、
群れる事を強制する、地球に生まれたくなかった。
そう、
宇宙人になれたらな、と僕は思った。
なかのひと
※僕が宇宙人になった日シリーズは実際の話が元になっています。
本当は道徳の授業とか、他の人物との対話とかを増やしたかったのですが、
面倒くさくなりました。
気が向いたら真面目に書いた奴あげるかも……
(期待、ダメ絶対)